7月末には、タイ経済の足元と、家計を支える政策の利用状況が公表された。
中央銀行によると、6月の個人消費は前月から持ち直したが、4〜6月全体では前四半期を下回った。政府が買い物代金の一部を負担する制度は、開始2カ月で約864億バーツの利用額に達している。
企業向けには、外国人によるタイ人の名義借りを防ぐため、会社設立後の変更手続きでも資金の確認が強まった。東部経済回廊(EEC)では、産業と農業の見通しが逆方向に動いた。
1|6月の消費は持ち直し。4〜6月全体では前四半期を下回る
タイ中央銀行(BOT)が7月31日に公表した経済報告によると、6月の経済活動は前月とおおむね同じ水準だった。個人消費は政府の支援策や電気自動車の販売に支えられて増加した。
設備投資では、輸出に関連する技術分野の機械・設備が伸びた。ただ、こうした設備や生産に使う部材には輸入品も多く、国内の製造業全体が同じように伸びたわけではない。製造業の生産は、製油所の定期修繕や電気自動車以外の自動車の生産減少などで弱含んだ。
観光も一様ではない。6月は外国人旅行者数と観光収入が前月から減少し、特に近距離市場からの旅行が弱かった。BOTは、エネルギー価格の上昇に伴う旅行費用や航空便への影響を挙げている。
4〜6月の四半期全体では、個人消費は多くの分野で前四半期を下回り、宿泊・飲食も弱かった。6月の持ち直しと、四半期を通じた消費の弱さは、比較する期間が違う。
出典: タイ中央銀行「Economic and Monetary Conditions for June and Q2/2026」(2026年7月31日、英語)
2|買い物代金の共同負担、2カ月の利用額は約864億バーツ
タイ政府は8月2日、消費支援制度「タイ・チュアイ・タイ・プラス60/40」の6〜7月の利用実績を発表した。7月31日23時時点の利用額は864億4,260万バーツ。政府の負担と利用者自身の支払いを合計した取引額で、政府予算だけの金額ではない。
7月27日号では、7月19日時点の781億4,200万バーツを紹介した。今回は2カ月分の集計がそろい、利用額は約83億バーツ増えた。いずれも制度を通じた取引の累計で、差額を政策によって新たに生まれた消費とみなすことはできない。
確認を通過した参加店舗は約119万店で、飲食店、小規模小売店、屋台などが含まれる。制度内の利用額の96.6%は通常の店舗を通じたもので、フードデリバリー経由は3.4%だった。この割合は制度内の取引についての数字で、タイの外食市場全体の構成を示すものではない。
制度は、対象となるタイ人登録者の代金を政府が原則60%、本人が40%負担する仕組み。政府負担は1日200バーツ、月1,000バーツまでで、9月30日まで利用できる。
出典:
- タイ政府「Thai Chuay Thai Plus 60/40、開始2カ月の利用実績」(2026年8月2日、タイ語)
- タイ政府「Thai Chuay Thai Plusの利用状況」(2026年7月22日、タイ語、7月19日時点の比較値)
- アーンシラー市「制度の対象・利用条件」(2026年5月22日掲載・28日更新、タイ語)
3|外国人の名義借り対策、会社設立後の株主・取締役変更にも
タイ政府は8月1日、商務省事業開発局(DBD)による企業登記の確認強化を発表した。同日から、会社設立時だけでなく、その後に株主や取締役などを変更する場合にも、外国人の投資に関わる資金の確認を広げる。
対象となるのは、タイ人の名義を借りて実質的に外国人が事業を行う「ノミニー」と呼ばれる行為への対策だ。設立時の審査を通過した後に株主や署名権限を持つ人を変更することで、確認を避ける余地を減らす。
政府の説明では、所定の条件に当てはまる場合、出資の説明書や、タイ人出資者・出資金の受領側の過去3カ月の銀行取引明細などを求める。個別の申請で必要になる書類は、取引や変更内容に応じた基準で決まる。
また、登記当局が保管する株主名簿の写しには、それ自体が「現在の株主の地位を証明するものではない」と分かる説明を加える。会社が保管する株主名簿との違いを明確にするためだ。
適法な外国人投資を一律に制限する発表ではないが、日系企業でも、会社設立後の出資や経営体制の変更に際して資金の流れを説明する準備が関係してくる。
出典: タイ政府「8月1日からのノミニー対策と企業登記の確認強化」(2026年8月1日、タイ語、中央会社登記局命令2/2569に関する政府説明)
数字で見る|+9.6ポイント
タイ財務省・財政政策局が7月27日に発表した7月の地域別将来経済信頼感指数(RSI)では、東部経済回廊(EEC)の産業と農業の見通しが逆方向に動いた。7月6日号で紹介した6月の値と比べると、産業は71.0から80.6へ9.6ポイント上昇し、農業は80.3から73.6へ6.7ポイント低下している。
EECは、チョンブリ、ラヨーン、チャチューンサオの東部3県を中心に、産業やインフラの整備を進める地域だ。
RSIは毎月公表され、県の財務事務所などから得た情報をもとに、今後6カ月の地域経済への見通しを0〜100で表す。50を上回れば現在より改善する方向、50なら横ばい、50未満なら悪化する方向を示す。実際の経済成長率ではない。
EEC全体は75.6から78.5へ2.9ポイント上昇し、サービスは81.4だった。財務省は、7月の見通しを支える分野としてサービスと産業を挙げ、観光や政府の支援策などへの期待を説明している。
6月にはサービスと農業が挙げられていた。今回は産業の見通しの改善が目立つが、この指数は期待を測る調査で、生産や受注の増加を示す統計ではない。各分野の重みも不明なため、全体の2.9ポイント上昇のうち何ポイントを産業が押し上げたかまでは計算していない。
出典:
- タイ財務省・財政政策局「RSI 2026年7月」(2026年7月27日、タイ語、地域別・分野別の表)
- 同「RSI 2026年6月」(2026年6月29日、タイ語)
- 同「RSIのデータ定義」(公表日記載なし、タイ語)
そのほかのニュース
地方の卸・小売約800拠点で、生活必需品の値引き企画
商務省は7月29日、地方の卸・小売事業者130超、約800拠点を通じ、8月1〜15日に生活必需品の値引き企画「Local Low Cost」を実施すると発表した。対象は米、魚醤、調味料などで、最大60%の値引きを掲げる。
全国一律に店頭価格を下げる制度ではなく、参加するメーカー、卸・小売店が商品ごとの特価を設ける企画だ。商務省は大型チェーンだけに頼らず、地方の卸売店や小売店を商品の供給先にし、地域の中小企業や地場産品にも販売場所を設けるとしている。
同じ「60」という数字でも、60/40制度の政府負担率とは異なる。こちらは商品の値引き率で、最大60%という表示が全商品に当てはまるわけではない。省は値引き企画と消費支援策を並行して進め、家計の負担軽減と地域店舗の販売を支える方針を示した。
出典: タイ商務省「Thai Chuay Thai × Local Low Cost」(2026年7月29日、タイ語)
ビッグデータ活用の戦略案を閣議に報告
7月27日、政府は2025〜2027年のビッグデータ活用戦略案が閣議に報告されたと発表した。ビッグデータとは、規模や種類の多い情報を分析し、政策や事業判断に使う取り組みを指す。
政府が課題に挙げるのは、情報が省庁ごとに分散し、相互に連携できていないことだ。データやAIを扱う人材の不足、個人情報保護、サイバーセキュリティ、法律や基盤設備の制約も含め、共通の方針を設ける。
案では政府向けクラウドやデータ目録を整え、医療・観光・農業などで情報を利用する。タイ語AIと学習用データの整備に加え、2027年までに16万人以上を研修する目標も掲げた。今回の閣議での扱いは戦略案の報告・認識であり、個別のシステムが動き始めた段階とは区別される。
出典: タイ政府「ビッグデータ活用戦略案2025〜2027年」(2026年7月27日、タイ語。閣議での扱いは原文「รับทราบ」)
オンライン販売の被害対策、プラットフォームの役割も検討
8月1日の政府発表では、消費者保護当局が、危険な商品や広告と異なる商品への対応を、販売者だけでなくオンライン市場の運営会社にも求める方向で制度を検討する。
背景には、購入者に被害が生じても救済を受けにくいという問題がある。政府は、売り手と買い手を仲介し取引から利益を得るプラットフォームにも、不正な商品の販売防止や停止、被害回復、違反店舗への対処を担わせる「共同責任」の考え方を示した。
消費者保護当局には、プラットフォームのサービスを直接停止させる法的権限に制約があるため、デジタル分野などの監督機関と役割を整理し、法改正も検討する。多数の消費者が同じ被害を受けた場合の集団訴訟も検討対象だ。売り手と運営会社の責任分担を見直す方針であり、新たな一律の賠償義務が発効したという発表ではない。
出典: タイ政府「オンライン販売における消費者保護と共同責任の検討」(2026年8月1日、タイ語)
木曜の「今週の分析」
タイの買い物補助は、小さな店に何をもたらしたのか
買い物補助に多くの人が参加しても、いつもの買い物を補助付きの支払いに切り替えただけなら、店の売上が同じだけ増えたとは言えない。さらに、小さな店の売上を増やすことと、多くの店へ支援を行き渡らせることも、別の課題だ。
木曜は、過去の共同負担制度を調べた二つの研究を読む。小規模な飲食店の売上増は、客数と客単価のどちらによるものだったのか。補助が終わった後にも効果はあったのか。参加店と非参加店の比較をたどり、制度中の利用総額からは分からない結果を紹介する。
もう一つは、支援金の偏りをどう読むかだ。「大きな店が得をした」と言い切る前に、受取額の順位と参加期間の関係を調べる。配達アプリを対象にした研究と、店頭利用が中心の今回の60/40制度との違いも踏まえ、小さな店への支援をどう評価できるかを考える。