6月末から7月初めにかけて、タイでは日系企業の景況感、自動車産業、エネルギー政策に加え、バンコク周辺の都市開発でも動きがあった。
在タイ日系企業の景況感は再び弱含んでいるものの、設備投資への意欲が失われているわけではない。自動車ではマツダがラヨーン工場への追加投資を決め、タイ政府も電気自動車だけに偏らない電動化政策を続けている。
一方、電力では再生可能エネルギーや蓄電設備を産業競争力と結び付ける姿勢が明確になりつつある。バンコク北部では、不動産開発大手のCentral Pattanaが大型商業施設を開業した。
1|日系企業の景況感は悪化の見通し。設備投資は23%が増額を予定
盤谷日本人商工会議所(JCC)は6月30日、在タイ日系企業504社が回答した「2026年上期タイ国日系企業景気動向調査」を公表した。
JCCはタイで事業を行う日系企業を中心に構成される商工会議所で、この調査を1971年から年2回実施している。在タイ日系企業の経営環境を長期的に追える代表的な調査の一つだ。
企業の業況感を示すDIは、2025年下期の実績が0だったのに対し、2026年上期の見通しはマイナス6となった。2026年下期についてもマイナス7が見込まれている。調査は5月12日〜6月5日に行われており、2026年の値はいずれも企業の見通しを表している。
DIは、業況が「上向いた」と答えた企業の割合から「悪化した」と答えた企業の割合を差し引いた数字で、0を下回れば悪化を感じている企業の方が多いことを示す。見通しのDIは、今後の業況に対する回答から同じ方法で計算する。
一方、設備投資の計画を見ると、2026年に「増やす」とした企業は23%、「前年並み」が48%だった。投資内容では、老朽化した機械の更新が59%、設備の合理化が31%、デジタル化関連が22%となっている。投資内容は複数回答だ。
設備投資の中では、工場の新設に限らず、既存拠点で使う機械の更新や合理化が主要な目的になっている。
出典: 盤谷日本人商工会議所「2026年上期タイ国日系企業景気動向調査・概要版」(2026年6月30日、PDF pp. 1–2)
2|マツダがラヨーンに74億バーツ追加投資。2027年からマイルドハイブリッド生産
7月1日、タイ投資委員会(BOI)は、マツダの合弁会社AutoAlliance Thailandによる74億バーツ超の追加投資を承認したと発表した。
BOIは国内外企業への税制優遇などを通じて投資を促進するタイ政府機関で、タイの産業政策を追ううえで重要な存在だ。
今回の投資では、ラヨーン県の既存工場を改修し、2027年からマツダの新型マイルドハイブリッド車を生産する。マイルドハイブリッドは、エンジンの働きを小型モーターで補助する方式だ。タイ国内に加え、日本や東南アジア諸国連合(ASEAN)への輸出も予定している。
その2日後、タイ政府はBOIによる電動車関連産業への投資状況を公表した。
2026年5月までに投資促進を受けた案件は198件、総額は1,370億バーツ超。内訳は、電気自動車(BEV)が395億バーツ、ハイブリッド車(HEV)が299億バーツ、プラグインハイブリッド車(PHEV)が約94億バーツだった。BEVは電池とモーターだけで走る車、HEVはエンジンとモーターを組み合わせる車、PHEVは外部からの充電にも対応するハイブリッド車を指す。
完成車以外にも、電池・蓄電設備が335億バーツ、モーターや電池管理装置などの主要部品が125億バーツに達している。これらは投資促進の承認額であり、すべての設備が完成・稼働したことを意味する数字ではない。
マツダの計画は既存工場の更新であり、新設工場の誘致と異なる形の電動化投資だ。BOIの集計でも、完成車とその主要部品の両方に投資計画がある。
出典:
- タイ投資委員会(BOI)「AutoAlliance Thailandのマイルドハイブリッド生産投資」(タイ語)
- タイ政府/BOI「タイの電動車関連投資状況」(2026年7月3日、タイ語)
3|再生可能エネルギーを、環境政策だけでなく産業政策として位置付け
7月4日、タイ政府は再生可能エネルギーの拡大とあわせて、蓄電設備や次世代送電網の整備を進める方針を改めて示した。
目新しいのは、再生可能エネルギーの導入そのものではない。今回の政府発表では、クリーンな電力を安定的に供給できることを、投資誘致や輸出競争力の問題として明確に位置付けている。
政府は、データセンター、電子産業、電動車、食品などを例に挙げ、今後は安定した電力供給に加えて、炭素排出の少ない電力を利用できることが企業の投資判断や輸出競争力に関係すると説明した。
そのため、太陽光や風力だけではなく、蓄電設備、電力の需給を効率よく調整するスマートグリッド(次世代送電網)、エネルギー管理システムなども整備対象としている。
現時点で大型の新規事業が一つ決まったという話ではない。
ただ、データセンターや先端電子産業への投資が増える中で、産業政策とエネルギー政策を別々に考えにくくなっていることは確認できる。
出典: タイ政府「世界はクリーン電力時代へ、タイのエネルギー構造転換を加速」(2026年7月4日、タイ語)
4|バンコク北部でCentral Northville開業。45億バーツを投じ旧商業施設を再開発
7月3日、Central Pattanaはノンタブリー県ラッタナティベート通りに「Central Northville」を開業した。
ノンタブリーは行政上はバンコク都の外だが、都市圏としてはバンコク北部と一体化している地域だ。
Central Northvilleは、旧Central Rattanathibetの敷地を再開発する複合開発で、投資額は45億バーツ超。今回開業したのは商業施設で、住宅も含む開発が計画されている。Central Pattanaは健康や長寿、自然を取り入れた都市生活を開発コンセプトに掲げ、買い物の場だけでなく地域の生活拠点として位置付けている。
同社は2026〜2030年に1,100億バーツを投資する5カ年計画を掲げており、ラッタナティベートだけでなく、パホンヨーティンやランシットなどでも大型開発を進めている。
出典:
- Central Pattana「Central Northvilleの開業計画」(2026年6月5日、同社発表のThaiPR配信、英語)
- Central Pattana「Central Northville Grand Opening」(同社公式LinkedIn、英語)
- Central Group/Central Pattana「2026〜2030年の1,100億バーツ投資計画」(2026年3月26日、英語)
数字で見る|75.6
タイ財務省が6月29日に公表した「地域別将来経済信頼感指数」で、東部経済回廊(EEC)は75.6となった。
EECは、チョンブリ、ラヨーン、チャチューンサオの東部3県を中心に、タイ政府が自動車、電子、デジタル、物流などの重点産業とインフラ整備を進める地域を指す。
この指数は、全国76県の財務事務所などへの調査をもとに、今後6カ月の地域経済への見通しを0〜100で表したもの。財政政策局の定義では、50を上回れば現在と比べて先行きを改善方向に見ていることを意味する。
6月のEECは75.6で、5月の74.9から0.7ポイント上昇した。前年2025年6月の71.6と比べても4.0ポイント高い。バンコクと周辺地域は59.8だったため、地域別に見ても高い水準だ。
ただし、「製造業への投資が好調だから75.6」と単純に読むことはできない。
内訳は、
- サービス:81.5
- 農業:80.3
- 雇用:73.2
- 投資:72.1
- 産業:71.0
だった。
財務省は、年末の観光シーズンへの期待や果物、ゴム、水産物などを背景に、サービス業と農業を主な押し上げ要因としている。
75.6という数字は、EECの工業投資だけではなく、東部地域全体の先行きに対する期待が比較的強いことを示している。
出典:
- タイ財務省・財政政策局「地域別将来経済信頼感指数 2026年6月」(2026年6月29日、タイ政府掲載、タイ語、地域別集計表)
- タイ財務省・財政政策局「地域別将来経済信頼感指数 2026年5月」(2026年5月28日、タイ政府掲載、タイ語、地域別集計表)
- タイ財務省・財政政策局「地域別将来経済信頼感指数 2025年6月」(2025年6月27日、タイ語、PDF p. 2)
そのほかのニュース
ASEANからの買い物客に照準。UOBと大手商業施設7社が共同キャンペーン
7月2日、シンガポール系銀行のUOB ThailandはCentral、The Mall Group、Siam Piwat、One Bangkok、King Powerなど大手小売・商業施設7グループとの共同施策を発表した。
対象は、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどからタイを訪れるカード会員。参加施設でカードとパスポートを提示すると、最大1,000バーツの商品券やラウンジ利用などの特典を受けられる。銀行の顧客網と商業施設を結び付け、旅行中の買い物を促す仕組みだ。
同行が示す年末までの小売消費目標は50億バーツ超。キャンペーンの期間自体は3月1日〜12月31日で、7月2日は提携の発表日となる。今回公表されたのは集客策と目標額であり、すでに50億バーツの消費が生まれたという実績報告ではない。
出典: UOB Thailand「UOB partners with seven retail giants to power Thailand’s tourism spending」(2026年7月2日、英語)
SET、上場企業の情報開示ルールを7月1日から変更
タイ証券取引所(SET)は7月1日から、上場企業や不動産投資信託などに対する監督・情報開示規則を変更した。
例えば、取締役会や監査委員会が内部統制に重大な影響を及ぼす事象を把握した場合、速やかに開示し、是正まで四半期ごとに進捗を報告する。決算と同時に開示する資産の減損や信用損失などについても、問題が解消するまで報告を続ける。
上場会社を通じて別の事業を実質的に上場させる「裏口上場」では、取得資産の規模に加え、支配権や経営陣の交代など取引の実態を審査する。主たる事業が明確でなく資産の大半が現金などになっている企業についても、資産売却でそうなった場合だけに監督対象を限らない。業績の数字だけでは見えにくい内部の問題や、事業の実態を投資家が追うための見直しとなる。
出典: タイ証券取引所(SET)「SET enhances supervision and disclosure rules for listed companies」(2026年7月1日、英語)
家庭用太陽光発電、余剰電力の売電までオンラインで申請可能に
7月5日、タイ政府は家庭向け太陽光発電制度について、首都圏配電公社(MEA)と地方配電公社(PEA)のウェブサイトからオンライン申請できると案内した。
住宅の屋根で発電した電気を自宅で使用し、余った電気を電力網へ売ることができる制度だ。
首都圏では、2026年の制度で余剰電力の買い取り価格は1kWh当たり2.20バーツ、買い取り期間は10年、売電の申請容量は1メーター当たり最大5kW(交流側)までとされている。5kWは売電側の上限であり、太陽光パネルの設置容量そのものの上限ではない。
出典:
- タイ政府「家庭向け太陽光発電のオンライン申請案内」(2026年7月5日、タイ語)
- 首都圏配電公社(MEA)「My Energy:2026年家庭用太陽光発電・余剰電力買い取り制度」(2026年6月26日のエネルギー規制委員会告示に基づく条件、タイ語)
木曜の「今週の分析」
タイのEV政策は、なぜ生産を求めながら条件を緩めるのか
輸入EVの販売を補助し、その後はタイ国内での生産を求める。工場を呼び込む仕組みとしては分かりやすいが、販売が計画に届かなければ、企業は「売れる台数」と「制度上、造るべき台数」のずれを抱えることになる。
木曜の分析では、輸入時の優遇が後の生産義務へどうつながるかを、台数の計算から説明する。そのうえで、政府が生産期限や輸出の数え方を調整する理由と、すでに生産を進めた企業との公平性を考える。
さらに、完成車の生産台数を増やす政策と、タイ国内の部品を使ってもらう政策の違いにも踏み込む。工場の建設発表だけでは分からない、完成車メーカーと部品メーカーそれぞれにとっての採算を、制度の条件から読み解く。