今週は、タイ経済の強い部分と弱い部分が、かなり対照的に表れた。
投資の申請は好調だ。2026年上半期の投資促進申請額は1兆4,737億バーツに達し、輸出も6月まで24カ月連続で前年を上回った。
その反面、国内では家計の購買力の弱さが続いている。外食市場は売上の伸びが鈍る一方、登録事業者が増え、バンコク首都圏の住宅販売には23年ぶりの低水準という予測が出た。
米国では、タイからの一部輸入品に新たな追加関税も発効した。投資や輸出の大きな数字だけでは、今のタイ経済を説明しにくくなっている。
1|上半期の投資申請は1.47兆バーツ。4分の3がデジタル
税制優遇などで投資を促進するタイ投資委員会(BOI)は7月23日、2026年上半期の投資促進申請が1,299件、総額1兆4,737億バーツになったと発表した。BOIによると、金額は前年同期比37%増となる。
伸びを支えたのはデータセンターなどのデジタル分野だ。申請は90件、1兆1,153億バーツ。金額では全体の75.7%を占めた。
次に大きかった電子・電機は1,202億バーツで、農業・食品加工614億バーツ、物流・高付加価値サービス402億バーツ、エネルギー・公共インフラ395億バーツ、自動車・部品257億バーツと続く。地域別では中部が9,038億バーツ、東部が4,957億バーツだった。
1兆4,737億バーツは、すでに建設や設備購入を終えた金額ではなく、BOIへの投資促進申請額だ。
また、デジタル分野は金額では75.7%に達するが、案件数では全体の6.9%にとどまる。投資額の拡大には、データセンターなど少数の大型デジタル案件が大きく寄与している。
出典:
- タイ投資委員会(BOI)「2026年上半期の投資促進申請・承認実績」(2026年7月23日、タイ語)
2|輸出は20.8%増で24カ月連続プラス。米国では新たな追加関税
7月24日のタイ商務省の発表によると、6月のタイ輸出額は346億5,590万ドルとなり、前年同月比20.8%増えた。前年を上回るのは24カ月連続。2026年上半期では17.6%増となった。
牽引しているのは工業製品で、電子機器、携帯電話、電気製品、自動車・部品などが伸びた。世界的なAI関連インフラ投資が、タイからの電子製品輸出にも追い風となっている。
農産物・農産加工品は全体として弱かったものの、天然ゴム、缶詰・加工水産物、砂糖などには回復が見られた。
米国でも7月24日午前0時1分(米東部時間)、タイ製品の一部に対する新たな追加関税が発効した。
米通商代表部(USTR)は、強制労働で生産された商品の輸入禁止措置を十分に導入・執行していないと判断した国・地域を対象に、通商法301条に基づく関税措置を決定。タイには、免除品目などを除き、通常の最恵国(MFN)税率に加えて12.5%の追加関税が適用される。MFN税率は、貿易相手に原則共通して適用する通常の税率を指す。タイ商務省は、同日に失効する通商法122条の追加関税10%に代わる措置で、対象品の追加税率は2.5ポイント高くなると説明している。
タイ商務省によると、集積回路(IC)、ハードディスクドライブ(HDD)、航空機部品、天然ゴム、タピオカでんぷん、パイナップルなど2,120品目は今回の追加関税から除外された。これらはタイから米国への輸出額の半分以上を占めるという。
電子・電機を中心とする主力品の多くが免除されたため、12.5%という数字がタイの対米輸出全体にそのまま掛かるわけではない。ただ、対象品を輸出する企業には新たなコストとなる。タイに生産拠点を持つ日系企業にとっても、製品ごとの扱いが重要になる。
出典:
- タイ商務省アーントーン県事務所「2026年6月の貿易動向発表」(2026年7月24日、タイ語)
- 米通商代表部(USTR)「USTR Takes Action in Forced Labor Section 301 Investigations」(2026年7月23日、英語。措置の詳細PDF、発効時刻・経過措置はp. 2)
- タイ商務省「米国との通商協議および301条措置について」(2026年7月24日、タイ語)
3|外食市場は売上の伸びが鈍化。登録事業者は7.9%増
外食需要の伸びが限られるなか、新たな参入が続いている。
アユタヤ銀行の調査部門Krungsri Researchは7月22日、2026年上半期のレストラン・フードサービス売上について、増加は続くものの2025年の約2.5%成長から伸びが鈍るとする見通しを公表した。
同社がタイ商務省事業開発局(DBD)の統計をもとに紹介した登録・営業中の飲食事業者は、前年同期比7.9%増の2万8,025事業者。個人経営を含む全国の飲食店の総数ではない。上半期の新規法人登録は15.7%増えた一方、登録資本金の総額は2.6%減った。同社は、小規模な事業者の参入が中心になっているとみている。
背景の一つに、6月から始まった政府の消費刺激策「タイ・チュアイ・タイ・プラス(60/40)」がある。
対象となるタイ人登録者の買い物代金を、上限付きで政府が60%、本人が40%負担する制度だ。6月から9月まで実施され、日本人居住者は対象ではない。
7月22日の政府発表によると、19日までに2,604万人が利用資格を得て、利用者と政府の負担を合わせた支出額は781億4,200万バーツだった。参加登録を終えた店舗は109万店を超え、その99%以上が個人経営などの小規模事業者だった。飲食・飲料店は主要な参加業種に入っている。
今回の市場見通しで注目されるのは、この制度への参加を目的とした事業登録も、新規登録の増加につながったというKrungsri Researchの指摘だ。消費支援が需要を補う一方で、売り手も増えている。
2026年通年の外食売上は1.8〜2.8%増と予測されているが、事業者の増加、弱い購買力、大手による低価格帯への進出が重なり、競争はむしろ厳しくなりそうだ。
出典:
- Krungsri Research「Industry Horizon (July 2026)」(2026年7月22日、英語、Restaurant節。同社の見通し・統計紹介)
- アーンシラー市「Thai Chuay Thai Plus 60/40の条件と利用方法」(2026年5月22日公表・28日更新、タイ語)
- タイ政府「Thai Chuay Thai Plusの利用状況」(2026年7月22日、タイ語、利用状況は7月19日時点)
4|バンコク首都圏の住宅販売、23年ぶりの低水準と予測
外食と同じKrungsri Researchの7月版では、バンコク首都圏の住宅市場にも厳しい予測が出た。
2026年1〜5月に新規発売された住宅は1万2,939戸で、前年同期比6.6%減。この新規発売物件の販売戸数は2,982戸で20.3%減った。なかでも戸建ての販売は57.9%落ち込んだ。
コンドミニアムは少し違う。新規供給は35.6%増えたが、販売は19.1%減った。高級物件の供給が増えた一方、買い手の数は追いついていない。
Krungsri Researchは2026年通年について、新規供給を3万6,000戸、住宅販売を4万6,000戸と予測している。どちらも23年ぶりの低水準だ。
同社は、一定条件の住宅取引に対する所有権移転・住宅ローン登記手数料の軽減が、2027年6月まで延長されたことを下支え材料に挙げている。それでも家計債務の高さ、弱い購買力、住宅ローン審査の厳格化が重荷となっている。
高級コンドミニアムにはタイ人・外国人富裕層の需要が残ると予想されており、「バンコクの不動産市場が一様に悪い」というより、価格帯による差が広がっている。
出典:
- Krungsri Research「Industry Horizon (July 2026)」(2026年7月22日、英語、Housing (BMR)節。同社の見通し・統計紹介)
数字で見る|42%
BOIが2026年上半期に投資促進を承認した案件は1,300件、総額1兆3,064億バーツ。
これらの案件では、年間3,860億バーツ超の原材料・部品をタイ国内から調達する計画になっている。
原材料・部品の調達額に占める国内調達比率は42%。2025年上半期の承認案件について公表された比率と同じだ。
同じ案件群が生み出す予定のタイ人雇用は8万2,000人以上、年間輸出額は1兆2,400億バーツ超とされる。
42%は承認案件全体の原材料・部品についての計画で、データセンター単独の比率でも、投資総額のうち国内に残る割合でもない。
出典:
- タイ投資委員会(BOI)「2026年上半期の投資促進申請・承認実績」(2026年7月23日、タイ語)
- タイ投資委員会(BOI)「2025年上半期の投資促進申請・承認実績」(2025年7月24日、タイ語)
そのほかのニュース
外国人旅行者は1,736万人、前年同期比3.1%減
BERNAMAが7月20日に伝えたタイ観光・スポーツ省の集計によると、1月1日から7月18日までにタイを訪れた外国人旅行者は約1,736万人。前年同期を3.05%下回った。
旅行者による消費額は約8,387億バーツ。国別では中国286万人、マレーシア225万人、インド131万人、ロシア106万人、韓国63万人の順だった。
累計人数が前年を下回る一方、7月12〜18日の1週間は58万5,189人と前週から4.04%増えた。同省は、中国や台湾の学校の夏休みと国際線の供給増を背景に挙げている。特に台湾からは台風の影響が和らいだこともあり、前週比50.74%増の2万5,201人となった。
年初からの累計と直近1週間では、比較期間も増減の方向も違う。週単位の持ち直しを支えたのは近距離市場で、長距離市場は前週とおおむね同水準だったという。
出典:
- BERNAMA「Thailand’s Foreign Tourist Arrivals Reach 17.36 Mln, Revenue Tops 838 Bln Baht」(2026年7月20日、英語。タイ観光・スポーツ省の発表を伝える報道)
ランドブリッジは再検討へ。先に「つながっていない区間」を整備
政府は7月22日、南部ランドブリッジ構想を再検討すると発表した。
タイ湾側のチュムポーンとアンダマン海側のラノーンを港湾・道路・鉄道で結ぶ大型計画だが、当面は既存の交通網で途切れている「Missing Links」の整備を優先する。
政府が挙げたのは、ラノーン港の整備とチュムポーンへの道路・鉄道による接続、北部チェンライ県チェンコーンからラオスのナートゥーイを経て中国のモーハンへつながる鉄道網など。大構想の完成を待たず、既存の港や路線を結ぶことで貨物輸送の選択肢を増やす方針だ。
ランドブリッジは中止が決まったわけではなく、採算性や投資方式を再検討する。今回の発表が示したのは整備の優先順位であり、各区間の工事着手や完成時期まで決定したという内容ではない。
出典:
- タイ政府「ランドブリッジを再検討、Missing Linksへの投資を優先」(2026年7月22日、タイ語)
ストリートフードに認証制度と専用アプリ
7月24日、バンコクのセントラルワールドで「Thai Street Gold Star」のロードショーが始まった。
中小企業振興庁(OSMEP)とスワンドゥシット大学が進める事業で、ストリートフード店を食品の安全性、メニューの独自性、サービスなどで評価。認証店を専用アプリで紹介する。
参加事業者には食品衛生だけでなく、事業計画、デジタルマーケティング、AI活用などの研修も実施する。大学の専門家が店舗を訪れて評価し、基準を満たした店が出店イベントで販売する流れだ。認証だけで終わらせず、アプリでの紹介と実際の販売機会を組み合わせる。
事業はバンコク、チョンブリ県パタヤ、チェンマイの3地域で試行中。バンコクの7月24〜26日に続き、パタヤは8月7〜9日、チェンマイは8月21〜23日の開催を予定する。主催者はこの出店を、店ごとの商品や販売方法が顧客に受け入れられるかを調べる機会としている。
出典:
- タイ政府「Thai Street Gold Star Roadshow」(2026年7月24日、タイ語)
木曜の「今週の分析」
データセンターのための電力網。その増設費を誰が負担するのか
巨額の民間投資を呼び込んでも、施設の外にある送電線や変電所の増設費まで、その企業が引き受けるとは限らない。電力網を先に造った後、データセンターの開業が遅れたり、予定ほど電気を使わなかったりしたら、その費用は誰が負担するのか。
木曜は、タイ政府が求める「利用の保証」を、米オハイオ州の契約実績と比較する。接続を希望する段階と、支払い義務を伴う契約に進む段階で、需要の数字はどれほど違ったのか。計画中止への保証金と、稼働後の最低料金では何を防げるのかも分けて説明する。
電力の大口利用者が増えることは、既存設備の利用効率を上げる利点もある。投資誘致の利益と、使われない設備の負担。その分かれ目を立地・工事・契約から考え、タイの制度でどの条件に注目すべきかを整理する。