この週は、半導体と外国企業の投資をめぐる動きが目立った。
米Analog Devices(ADI)はチョンブリの拠点で、半導体の製造・試験だけでなく設計や研究開発まで機能を広げている。外国人事業法等に基づく事業認可に伴う投資額は上半期に前年同期比68%増え、国別では日本が最大だった。
週末にはタイ政府代表団が中国を訪問し、中国の大手テクノロジー企業4社がタイで700億バーツを超える追加投資を計画していると政府が発表した。
大型投資のニュースが続く一方、欧州企業との協議や、国際的な通商ルールへの参加、証券市場の制度見直しも進んでいる。
1|ADI、チョンブリで190億バーツ超を投資。設計・試験・研究開発まで機能を拡大
7月15日、税制優遇などを通じて投資を促進するタイ投資委員会(BOI)は、米半導体大手Analog Devices(ADI)のタイ事業について新たな詳細を公表した。
BOIが7月12日の視察を受けて紹介したのは、チョンブリ県アマタシティの新工場を含む、190億バーツ超の拠点拡張だ。
同社自身は3月19日に新工場の開設を発表している。タイ拠点が担うのは、半導体チップを保護するパッケージングや検査などの「後工程」と、半導体の材料となる薄い基板・ウエハーの処理だ。7月に初めて新工場への投資を決めたという発表ではない。
今回のBOI発表では、集積回路(IC)やプリント基板の設計、試験、故障解析、研究開発などへの機能拡大も紹介された。プリント基板は、電子部品を載せて電気的につなぐ部品を指す。
BOIによれば、同社の2025年のタイからの輸出額は980億バーツを超え、2026年は1,300億バーツ超を見込むという。
タイ人従業員は1,300人以上で、うち研究開発に携わる技術者が450人以上。今後はタイ人従業員を2,500人へ増やし、技術者500人、技能職500人を追加する計画も紹介されている。
BOIはこれを、タイの半導体産業が単純な組立・試験から、より付加価値の高い設計や研究開発へ進む例として位置付けている。
ADI自身の公式発表では、タイ拠点の中心的な役割は製造・パッケージング・試験とされている。設計や研究開発の拡大は同社の動きであり、タイの半導体産業全体が上流工程へ移ったことを示すものではない。
出典:
- タイ投資委員会(BOI)「ADI、タイで設計・試験機能を拡張」(2026年7月15日、タイ語)
- Analog Devices「Analog Devices Strengthens Global Manufacturing Resilience with New Thailand Facility」(2026年3月19日、英語)
2|外国人の事業投資は上半期に68%増。投資額では日本が首位
7月17日、タイ商務省は、事業開発局(DBD)がまとめた2026年上半期の外国人事業に関する投資状況を公表した。
外国人事業法などに基づきタイで事業を認められた外国企業は640社。前年同期比27%増え、投資額は1,876億バーツと68%増加した。このうち事業許可を申請した企業によるタイ人雇用は4,269人で30%増。雇用の数字は640社全体の集計ではない。
企業数では中国が110社で最多だった。
一方、投資額では日本が447億バーツで首位となり、シンガポールの379億バーツ、中国の355億バーツを上回った。日本企業は87社だった。
日本からの投資には、工場の機械・設備に関する技術サービス、電気自動車(EV)の充電設備、ソフトウェア開発、太陽光発電、発電機、金属製品などが含まれる。
中国企業では、EV関連の技術サービス、発電設備、ソフトウェア、金型、電子部品・プリント基板の受託生産などが目立つ。
なお、この統計は「外国人事業法等に基づき事業を認められた外国企業」の集計で、BOIの投資申請統計とは対象や集計方法が異なる。タイへの外国直接投資全体や、実行済みの投資額を示すものではなく、BOIの申請額と単純に足し合わせることもできない。
出典:
- タイ商務省「2026年上半期 外国人投資640社、1,876億バーツ」(2026年7月17日、タイ語)
3|中国大手4社、タイで700億バーツ超の追加投資を計画
7月18日、タイ政府代表団は中国でXiaomi、Changan Automobile、InnoLight Technology、Eoptolink Technologyの4社と個別に協議した。
翌19日のタイ政府の発表によると、4社が2026年中にタイで計画する追加投資額は合わせて700億バーツを超える。対象にはEVの生産能力拡大のほか、データセンター向けの光通信機器、半導体・高速通信関連などが含まれる。
光通信機器は、光を使って大量のデータを送受信するための装置だ。InnoLightとEoptolinkはいずれも、データセンターなどで使う機器を手掛ける。
政府発表によれば、Eoptolinkはタイを中国国外で唯一の生産拠点としており、チョンブリとラヨーンで8,000人以上を雇用している。今後も生産能力を拡大する方針を示した。
700億バーツ超は政府との協議で示された投資計画で、4社別の配分や実施時期の詳細は公表されていない。
同じ訪中期間中には、四川省成都にBOIの新しい投資誘致拠点も開設された。半導体、人工知能(AI)、ロボット、EV、航空宇宙、バイオ、クリーンエネルギーなどの企業誘致を主な対象としている。
出典:
- タイ政府「中国大手4社、タイで700億バーツ超の追加投資計画」(2026年7月19日、タイ語)
- タイ政府「Xiaomi、Changan、InnoLight、Eoptolinkとの個別協議」(2026年7月18日、タイ語)
- タイ政府「BOI成都事務所を開設」(2026年7月18日、タイ語)
4|欧州企業40社超と協議。FTAとOECD加盟を投資誘致に結び付ける
7月16日、タイ政府はEU・ASEANビジネス評議会などを通じ、欧州の大手企業40社以上と協議した。
参加企業は、医薬・医療、金融、保険、自動車、エネルギー、食品、デジタル、観光、消費財など9分野。Bayer、Sanofi、Bosch、Michelin、Siemens Energy、SAPなどが参加している。
政府側は、デジタル・AI、クリーンエネルギー、物流などのインフラ整備に加え、大型投資の許認可手続きを迅速化するThailand FastPassを説明した。
経済政策や制度の国際的な協調を担う経済協力開発機構(OECD)への加盟準備や、関税・貿易障壁の引き下げなどを目指すタイ・EU自由貿易協定(FTA)の早期妥結も話題になった。
この発表には、新たな大型投資の決定額は示されていない。
出典:
- タイ政府「欧州企業40社超と投資環境、FTA、OECDについて協議」(2026年7月16日、タイ語)
数字で見る|7,153億バーツ
7月16日、タイ政府はデータセンターと、サーバーなどを使って顧客のデータを保管・処理するデータホスティング事業について、2025年から2026年3月までにBOIが投資促進を承認した案件が34件、総額7,152億9,500万バーツに達したと公表した。
公表総額を34件で割ると、1案件当たり約210億バーツになる(Thailand Forwardによる単純計算)。これは平均であり、個々の案件が同じ規模という意味ではない。承認額は、実際に支出された金額とも区別する必要がある。
ただし、データセンターはサーバー設備や建物、電力設備などを含むため投資額が大きくなりやすく、この金額をそのまま雇用や国内付加価値と読み替えることはできない。
前週7月8日には、BOIがデータセンターの審査体制を見直し、電力・水などの資源、環境負荷、クリーンエネルギーの利用も含めて案件を選別する方針を示している。
出典:
- タイ政府「データセンター・データホスティング34件、7,152.95億バーツを承認」(2026年7月16日、タイ語)
- タイ投資委員会(BOI)「Thailand Approves $1.99 Billion in New Investment, Led by AI and Advanced Electronics」(2026年7月8日、英語)
そのほかのニュース
タイと中国、EV・太陽光・デジタルなどの供給網で協力へ
7月14日の閣議で、タイ商務省と中国商務省による産業・供給網協力の覚書案が承認された。
対象には情報技術、鉱物、電気自動車、太陽光発電、環境関連産業、技術・イノベーションなどが含まれる。
企業だけでなく、政府、金融機関、研究機関をつなぎ、原材料から最終製品までの供給網で協力を進める。特に中小・零細企業の参加を支援する方針で、情報交換や共同活動のほか、デジタル技術を使ったインフラの連携も含まれる。
政府は、関税や貿易障壁の引き下げを進めるASEAN・中国自由貿易協定の高度化とも連動させると説明した。ただし、この覚書自体は国際法上の拘束力を持たない省庁間の協力枠組みだ。閣議は署名権限も承認したが、今回の発表に個別企業の受注額や投資実行額は示されていない。
出典:
- タイ政府「タイ・中国 産業・供給網協力MOU案を閣議承認」(2026年7月14日、タイ語)
タイ、将来の貿易ルールを議論する国際枠組みに参加
同じ7月14日、タイ政府は「Future of Investment and Trade Partnership(FIT Partnership)」への参加を決めた。
シンガポール、ニュージーランド、スイス、アラブ首長国連邦(UAE)などが始めた任意の協力枠組みで、7月14日の政府発表では16カ国が参加しているとされる。
供給網の寸断への備え、デジタル貿易、貿易・投資手続きの円滑化などを議論する。法的拘束力はなく、新たな市場開放を直接求める協定でもない。
参加と同時にすべての提案を受け入れたわけでもない。タイは、電子的なデータ送信に対する関税の免除、「必需品」の定義、危機時の供給網管理などに検討事項があるとして、成果文書3件の承認を今回の決定に含めなかった。新しいルールを早い段階から議論する場には加わり、個別の条件は引き続き交渉する立場を取っている。
出典:
- タイ政府「タイ、FIT Partnershipへの参加を決定」(2026年7月14日、タイ語)
SET、内部監査の資格や株主の電子委任に関する改正案を提示
タイ証券取引所(SET)は7月17日、上場企業の内部監査や情報開示、株主の権利に関する改正案の意見募集を始めた。締切は8月7日。
会社の業務や内部管理を点検する内部監査の責任者に、所定の資格や経験を求める案が柱の一つだ。既存の上場企業504社への事前調査では、要件を満たす企業は51%。残る企業の多くは経験があっても資格が不足しており、案では新規上場企業に2028年、既存企業に2029年から適用する準備期間を設けている。
このほか、上場維持要件への適合状況を年次で開示する書式や、株主がオンラインで代理人へ議決権行使を委任する仕組みの提供を提案した。7月6日号で扱った7月1日施行の開示規則とは別の改正案で、今回は施行前の意見募集に当たる。
出典:
- タイ証券取引所(SET)「Revision Rules to Strengthen Gatekeeper Mechanisms, Issuer Duties and Empower Shareholders’ Rights」(2026年7月17日〜8月7日、英語、意見募集一覧22番)
- 同「意見募集文書」(英語、PDF pp. 3–7、9–10。資格要件・適用時期・電子委任はいずれも改正案)
木曜の「今週の分析」
日本の投資額は増え、シェアは下がった。タイの外国企業統計を前年から読む
外国企業の認可投資額では日本が首位、企業数では中国が首位。同じ統計から二つの見出しが生まれるが、この順位だけで、日本企業の存在感が強まったのか弱まったのかは判断しにくい。
木曜の分析は、国別の数字を前年同期と並べるところから始める。日本の投資額が増えていても、シェアは低下し得る。その差を生んだのは誰の投資なのか。中国に加え、シンガポールの増加額も分け、全体の伸びへの寄与を比較する。
また、認可された企業の件数や金額は、タイにある外国企業すべての活動を表すわけではない。投資統計の集計範囲の違いも整理し、「日本が首位」「中国が日本を上回った」という報道を、どこまで企業の実態と結び付けて読めるかを検討する。