2026年1〜3月、タイの住宅移転登記は前年同期比11.2%増えた。同じ時期に、住宅の建設許可戸数は推計で50.2%減っている。完成した住宅の売買が増える一方、新たに住宅を供給する準備は縮んでいた。1

この落差には、住宅事業に特有の資金の動きがある。土地を買い、住宅を建て、購入者へ引き渡すまで、開発会社の資金は物件に固定される。販売で戻ったお金は、次の開発用地にも使えるが、借入の返済にも使える。取引が増えても、その分だけ新しい工事が増えるとは限らない。

7月24日までに公表された資料では、増えた住宅取引の約92%が300万バーツ以下に集中している。住宅ローンの規制緩和にも、銀行の審査までは緩めないという境界がある。住宅開発大手APとPruksaの決算を合わせると、物件が売れるまでの制約と、売れた後の資金の使い方が、次の開発を左右する構造が見えてくる。

取引の回復は300万バーツ以下に集中した

政府住宅銀行傘下の不動産情報センター(REIC)によると、1〜3月の全国の住宅移転登記は7万2,583戸だった。新築と中古を含み、所有権が実際に移った取引を数える。前年同期から増えた7,307戸のうち、6,739戸が300万バーツ以下の物件だった。1

物件の価格帯 2025年1〜3月 2026年1〜3月 増減戸数
300万バーツ以下 49,049戸 55,788戸 +6,739戸
300万バーツ超〜750万バーツ以下 12,946戸 14,004戸 +1,058戸
750万バーツ超 3,281戸 2,791戸 −490戸
合計 65,276戸 72,583戸 +7,307戸

価格帯はREICの表を当媒体で合算。300万バーツ以下は増加分の約92%、取引全体の約77%を占める。1

戸数の増加に対し、取引金額は3.1%増にとどまった。750万バーツを超える価格帯では、戸数が減少している。取引全体が増えたことで、高い価格の物件まで売りやすくなった状況ではなかった。

低価格帯へ取引が偏ると、1戸当たりの平均取引額も下がる。今回は約278万バーツから258万バーツへ、約7.3%低下した。これは売れた物件の構成を含む平均値である。同じ住宅の値下がりを示す数字ではなく、別の統計であるバンコクと周辺の新築低層住宅価格指数は、4〜6月に前年同期比0.9%低下だった。12

開発会社にとっては、取引件数の回復だけで、新しい土地を買って住宅を追加する判断はできない。どの価格なら買い手がつくか、その価格で土地・工事費と販売費を賄えるかが問われる。ここで購入者側の資金調達が、販売価格と並ぶ条件になる。

頭金の規制が緩んでも、ローン審査は残る

タイ中央銀行(BOT)は、住宅ローンのLTV規制の一時緩和を2027年6月30日まで延長した。LTVとは、担保物件の評価額に対する融資額の比率で、上限100%なら規制上は評価額と同額まで融資できる。3

今回の緩和で上限100%となるのは、担保価格1,000万バーツ未満では住宅ローンの2契約目以降、1,000万バーツ以上では1契約目からだ。1,000万バーツ未満の1契約目は、通常の規制でも上限100%だった。34

したがって、200万バーツの住宅を初めてローンで取得する人にとって、この延長で借りられる割合が新たに増えたわけではない。所得に対して返済額が大きい、既存の借入が多いといった理由で融資を受けられない場合、規制上の上限を延長しても、その問題は解消しない。BOTも5月の銀行部門報告で、信用リスクの高まりを背景に、消費者向け貸出はなお縮小していると説明していた。5

この境界が、開発会社の取り組みにも表れている。Pruksaは5月公表の事業方針で、住宅ローンの承認を得られなかった顧客に対し、一定期間の直接分割払いを用意し、将来の融資につなげる取り組みを説明した。販売する価格帯を合わせるだけでなく、銀行融資に至るまでの期間をつなごうとしている。6

会社の直接分割払いがどれだけ成約や移転登記を増やしたかは開示されていない。ただ、買い手を確保しても、銀行から購入代金を調達できるところまで進まなければ、開発会社の資金回収は完了しない。価格帯別の登記増加とLTV緩和をそのまま結び付けるより、この販売と融資の間にある工程が、既存物件を売り切る難しさをよく説明している。

Pruksaでは、売上が減っても資金回収が進んだ

Pruksa Holdingの1〜3月の不動産事業売上高は26.67億バーツで、前年同期比7.7%減った。事業別ではタウンハウス、一戸建てなどが減る一方、コンドミニアムは増えた。同社は既存プロジェクトの販売と資金回収を重視し、需要に合わせた設計・価格の見直しを進めている。6

3月末の販売用開発不動産の帳簿価額は356.91億バーツで、前年末から15.37億バーツ減少した。有利子負債も133.64億バーツから125.29億バーツへ、8.35億バーツ減っている。6

この二つの残高だけでは、在庫をいくら現金化したかまでは分からない。帳簿価額には新たな工事費の投入や、販売した物件の原価への振り替えも入る。そこで現金の出入りを示すキャッシュフロー計算書を見ると、医療事業などを含む連結全体の営業活動で9.12億バーツの資金を得る一方、財務活動では短期借入の返済などで9.39億バーツが流出していた。6

営業活動で得た資金と特定の返済を一対一には対応させられないが、資金が戻ってきても、それをすべて新規住宅の建設に使う局面ではないことが分かる。既存案件を売り、資産と負債を小さくすること自体が、事業の立て直しに意味を持っている。

同社が3月末に抱える販売中の住宅プロジェクトは131件、残る販売予定額は653.05億バーツだった。これは販売価格ベースの残額で、前述の帳簿価額とは異なる。新しい物件を追加する前にも、相当量の販売対象がある。開発会社には、既存案件の回収を急ぎながら、新規案件へ資金を固定する量を選ぶ事情がある。6

APは引き渡しを増やし、次の用地も取得した

同じ環境でも、APは1〜3月に37.18億バーツを土地取得へ投じた。会社は、完売した案件の補充と将来の成長のため、低層住宅と高層住宅の用地を取得したと説明している。Pruksaの資産・負債縮小と比べると、次の開発へ資金を向ける動きが明確だ。7

APの連結売上高は95.47億バーツ、前年同期比24.0%増。低層住宅では期首の受注残が引き渡しを支え、コンドミニアムでは完成案件が売上に加わった。Good Day Sukhumvit 93は、当初4〜6月を予定していた引き渡しを3月最終週に始めている。新たに契約を取る前にも、以前の契約と建設を売上へ変える余地があった。7

ただ、売上が24%増えても、純利益の増加は4.6%だった。売上総利益率は33.6%から29.6%に下がり、会社は低層住宅について厳しい市況を理由に挙げた。売上総利益は、売上から物件などの原価を引いた、人件費や販売費、金利を賄う前の利益である。

仮に前年の利益率がそのまま保たれたなら、今期の売上95.47億バーツに対する粗利益は、実際より約3.82億バーツ多かった計算になる。値引きだけの効果を測る数字ではなく、物件構成や原価などを含む差だが、販売額を増やす一方で採算が薄くなった大きさは分かる。APはその中でも、既存案件の引き渡しを進め、次の用地取得を続けていた。7

両社の事例は、全国の開発減少を二社だけで説明するものではない。APは投資を続け、Pruksaも新規案件を全面停止してはいない。違いは、住宅が売れた後に、次の開発と負債の縮小へどの程度の資金を回すかにある。

売買の回復が、新しい供給に結び付くまで

REICが集計した1〜3月の建設許可戸数は、低層住宅が前年同期比45.5%減、コンドミニアムが71.3%減で、合計2万7,870戸だった。2026年分は推計値で、着工実績とは異なる。それでも、売買の増加と並行して、新しい供給に先行する手続きが縮小していたことは確認できる。1

住宅市場では、以前に作った物件の販売が進むことと、新たな開発が広がることの間に、二つの資金上の関門がある。一つは、買い手が購入代金を調達できるか。もう一つは、代金を回収した開発会社が、次の物件へ資金を投じるかだ。

1〜3月の取引増加は、主に300万バーツ以下で起きた。LTV緩和は一部の購入者の自己資金負担を軽くしても、初回取得者の返済能力を増やす制度ではない。開発会社の側にも、販売を進めて借入を減らす使途があり、売上を伸ばしながら用地を取得する会社でも利益率は低下していた。

7月時点の住宅市場は、既存物件の売買が回復する過程にあり、その回復が新しい供給へ広く循環するところまでは確認できない。 登記の増加と建設許可の減少が並ぶ背景には、売れる価格、融資が成立する条件、開発会社が資金を回す先の違いがある。買い手への引き渡しで一つの案件が終わっても、次の開発が自動的に始まるわけではない。

出典・注記

出典・注記

  1. REIC「2026年第1四半期の全国住宅市場」(2026年6月19日、タイ語)、表3・5・6、PDF3・7ページ。新築・中古を含む移転登記。価格帯の合算、増加分の寄与、1戸当たり金額は当媒体の計算。金額の単位は百万バーツ。建設許可の2026年値は推計(E)で、着工数ではない。 2 3 4 5

  2. REIC「バンコクと周辺の新築低層住宅価格指数・2026年第2四半期」(2026年7月7日、タイ語)、公開ページの概要。全国・中古を含む移転登記の平均価格とは対象が異なる。

  3. BOT「LTV緩和を2027年6月30日まで1年間延長」(2026年5月14日、タイ語)。延長期間は2026年7月1日〜2027年6月30日に締結する対象契約。上限100%は規制上の上限で、融資実行を保証するものではない。 2

  4. BOT「住宅ローン規制は住宅取得の妨げになっているのか」(2024年年次報告の解説、タイ語)。1,000万バーツ未満の1契約目の通常上限を確認。

  5. BOT「Banking Sector Quarterly Brief, Q1 2026」(2026年5月19日、英語)。消費者向け貸出全体に関する説明であり、住宅ローンの不承認率を示す資料ではない。

  6. Pruksa Holding「Management Discussion and Analysis, Q1 2026」(2026年5月15日、英語)、PDF3〜8ページ。不動産事業売上高は前年同期比、資産・負債は2025年末と2026年3月末の比較。資金の使途と関連需要に関する整理は当媒体の分析。 2 3 4 5

  7. AP (Thailand)「Management Discussion and Analysis, Q1 2026」(2026年5月14日、英語)、PDF1〜3ページ。売上高は連結値。共同事業のコンドミニアム売上を全額足した広報上の数字とは区別した。 2 3